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『サブスタンス』の皮を剥ぐ② 女性の目線・男性の目線編

浅尾典彦(夢人塔代表・作家・治療家)
ゲスト: 石山悦子(演芸作家)

【ネタバレ満載】
今回は趣向を変えて、友人で演芸作家の石山悦子さんをお迎えして、映画『サブスタンス』を観る上での、女性目線と男性目線の違いなども含めて、言いたい放題の対談をお届けします。

●驚異の女優 デミ・ムーア

アサオ:今日は『サブスタンス』ネタで色々しゃべろうと友人で演芸作家の石山悦子さんにお越しいただきました。

石山:よろしくお願いします。

アサオ:お久しぶりです。映画『サブスタンス』見たんだよね。若返りのためにアカン薬物に手を出してすごい事になる映画ということで今ちまたで話題になっていますな。それで、見てどうでした?

石山:最初の卵に注射したらプクッと二つになる所やら、ハリウッド大通りの星に入った名前が古くなってゆくところで老いを表現するなど無駄なく、おしゃれで上手いなぁって思った。

アサオ:冒頭から凄いツカミですよね。後でじわじわ効いてくるという。

石山:私、デミ・ムーアさんを観るの『ゴースト』以来です。

アサオ:ほう。実際に1990年代にトップだった女優さんなので、映画の内容と本人がかぶるところがありますよ。

石山:当時、デミ・ムーアがかわいくて、まねしてショートカットにしたけど、デミ・ムーアにならなかった。顔が違いすぎた(笑)。
今回、凄くロンゲになってレオタード着てエアロビダンスとかやっている。

アサオ:あのシーンですが、実は1990年代に実際にエアロビダンスのブームがあった。

石山:あったあった。

アサオ:あのシーンは、我々マニアには1968年のカルトクラシックSF映画『バーバレラ』で有名なジェーン・フォンダが、1982年から発売したエアロビクスビデオのパロディなんです。当時、鬱病から脱出して健康になるため始めたエアロビクスが爆発的人気になり、本人出演のビデオがバカ売れして大ヒット。「エアロビクス」という言葉が一般に浸透したんですな。で、映画はそれもダメになって、謎の組織のヤバイ奴に手を出すがルールを破ってどえらいことになる。

石山:生まれ落ちたスーもええところでやめられず、イケメンといちゃついてる時に鼻血ツーとなったり。

アサオ:そうそう、それで宿主のエリザベスの方が怒ってブチ切れるが、所詮はどちらも自分の心であるという。

石山:で、肉体変貌が起きる。

アサオ:二人とも裸のシーンも体当たりでやっていた。

石山:デミ・ムーアさん、思ったより保っていた。

アサオ:いやデミ・ムーアはそれなりのお年なので、お尻もたれてるし、お腹も出て来ている。それでも「これが今の私」と映画でさらけ出す女優根性というかプロ意識。「おばちゃん体型」に自信を持って魅せれるのが逆にカッコヨカッタと思う。

石山:実年齢60歳越えてるよねー。

アサオ:62歳かな。

石山:62歳ならよく保ってると思う。一般はもっとすごい。

アサオ:え、そうかな。

石山:近所のお風呂屋さん行ったら物凄いのが……。

アサオ:それ、最後のシーンに出てくるような……、

石山:やかましいよーー(笑)。 中からナンカ出たりして(笑)。

アサオ:出なくていい。何にしろ今のところ本作は私の一推しです。何故かというと、女性の業というか「美しさへの追及」とか「外見だけにしか価値観がない」事への反発とか、「男社会へのカウンターパンチ」という怒りのようなものを感じた。

石山:私これを最初パーマやさんの雑誌の記事で知って、あまり情報を入れずに観た。

アサオ:で、ドーンと来たと、

石山:びっくりして、観終わって初めて女性監督だと知って、腑に落ちた。これ女性監督だから出来た。

アサオ:何が腑に落ちたの。

●女性目線からのダメ男たち

石山:出てくるキタナイプロデューサの描き方。

アサオ:外見にのみ価値を見出しているというエゴイストっぽいプロデューサーのハーヴェイのやつね。そんなにキタナイかなぁ。なりは結構良かったよ。

石山:キタナイ、キタナイ。トイレ行っても手を洗わない。

アサオ:あー、そうだった。

石山:その手でエビを食べまくる。食べ方もえぐい。あのひとが汚くて、なんか嫌だった。

アサオ:なるほど、そう云えばそうだった。ハーヴェイ役のデニス・クエイドはあのシーンの撮影が一番きつかったと言っていた。だいぶ食べさせられたと思う。でもあの人、デミ・ムーアと同じ頃に『インナー・スペース』というSF映画では、オトコマエの主役やってたんだよ。『ミクロの決死圏』の作り直しみたいな作品。

石山:でもキタナイ。口元のアップやら咀嚼音。剥いたエビの食べカスがテーブルで山のよう。許せない。不潔。

アサオ:首にハエがとまるシーンもあったような。男のいやらしさを強調しているシーンですよね。

石山:指がエビくさい (笑) 。

アサオ:レモン水で洗わなあかん奴。(笑) 。

石山:最後に誰かの服に擦り付けていた。あの人が嫌い。女性から見たらあの男が最低。

アサオ:最低なんだ。

石山:でも、あの人が唯一偉かったのは、スーが爆誕した時「マクラ(※)」強要しなかったこと。
※性的サービスを強要させるという業界用語(覚えなくていいです)

アサオ:なるほど。外見でしか人を評価できない男だが、プロで「コイツ育てたろ」と本気で思ったんだと思う。本当にそう思ってたからこそ、オーディションで取ってすぐ大抜擢して年末の特別番組で冠(※)にしてあげる。
※タレントの名前を前につけた番組でタレントにはステータスとなる。

石山:職業してはよし。おっさんとしてはダメ。もしかしたら企画の段階ではおっさんがスーに迫るところもあったのかもしれないが、話が散らかるので整理したのかも。スーの身体でも頃はエリザベス。プロデューサーと寝るとエリザベスの心の中で違う葛藤が生まれるからだと思う。

アサオ:話をシンプルに整理したのね。なるほどストーリーテラーとしての面白いご意見です。確かにバイクのイケメンとのシーンもあるしね。

石山:もう一つ気になったのが、エリザベスの同級生のおっちゃん。久々に出会った時に電話番号を渡す、全然いけてない人。

アサオ:メモがなんかちぎって渡したネ。

石山:しかもそれを泥水に落として。ひろってそのまま「ヘヘッ」と渡す。半笑いで。
「えー、渡すんか」と思った。

アサオ:でも受け取った。汚いメモの端くれを元大女優が受け取った、でその番号にかける。他にたよれる者がないほど堕ちているんです。

石山:みんなの意見を聞いていると、クソみたいな男性ばかり出ている中で、あの同級生だけが「いい人だ」という評価もあった。

アサオ:なるほど。

石山:でも、私はこの男こそクソだと思った。

アサオ:え、なんで?

石山:泥のついたのをそのまま渡したところと、エリザベスからの電話に変な対応をするところ。

アサオ:あの人はそれが普通なんだよきっと。家族も友達もなく、品格を形成している暇がなかったと。人と向き合う仕事なんかしていたらビジネスカードの一つ位持っているもの。そんなのもないという設定かな。

石山:でも泥の付いたのをそのままで渡す?

アサオ:そんなデリカシーのない男なんだ。あれは「地に落ちたエリザベスが藁をもすがる」といううらぶれ感を出したかったんだと思うな。

石山:それが気になった。それで化粧をする。

アサオ:それで髪型が気に入らない、化粧がダメで、と何度もやりなおすところ。

石山:グッシャーとなって、

アサオ:あんなシーン、男では絶対描けない。

石山:スーと比較して「もうアカンこんな顔じゃダメだ」と、あのシーンが一番怖かったとか、えぐられたとか、哀しかったとか評価があった。

アサオ:なるほど。

石山:でも作家としての私の立場からしたら別の可能性を考える。「もし、綺麗に仕上がってデートに行ったとしても、所詮あの男とやん」と、

アサオ:あの男とねんごろになって新しい人生になったりして、

石山:でも、たぶん女からしたらデートはオモロナイし、話しは合わないと思うねん。しかも、帰りに「割り勘」にしそう。

アサオ:あの男なら「割り勘」が普通だろね。

石山:そしたら、行ったら行ったで「あーあ」って落ち込む。その落ち込み方はすごいんですよ。最後すがって、コッチから誘っているが、おもんない話ずるずる聞かされて、挙句に割り勘になったらもう死にたくなると思うんよね。

アサオ:死にたくなるなるんやー。

●エリザベスとスーは親子的

アサオ:元々あの二人では住む世界が違い過ぎる。で、もう一度光の当たる世界に戻ろうと、エリザベスはあんな姿になってから、化粧して舞台に向かって行くのかな。男の私には理解できないけど、

石山:ピアス付けて口紅塗って、

アサオ:口紅塗ってた。何処やらよくわからん処に。

石山:あの気持ちはある。

アサオ:そして、今の自分を見せに行く。

石山:そう。

アサオ:美意識もすでにぶっ飛んでるんだろね。

石山:もうね、復讐劇ではないですが、アノ血みどろブッャーへと繋がる。

アサオ:ハンパないシーン。血の量は『キャリー』の30倍位は出てる。

石山:中途半端じゃなくって、あれ位思いっ切りやってくれたのが気持ち良かった。

アサオ:消防署の放水クラス!

石山:『キャリー』は母親がえぐい。

アサオ:あれ”毒親”のルーツみたいな人ね。

石山:『キャリー』じゃないけど、エリザベスとスーは親子的な感じ。

アサオ:いや、これ二人とも同一人物です。

石山:解るけど、一つの身体から分かれてプリッと生まれてね、母体と新しいカラダで……、親子じゃないけどね。

アサオ:なるほど親子的な、ね。

石山:そうそう、そうなると憎悪が生まれるともう止まらん。他人じゃないだけに。そういう怖さがあった。

アサオ:母娘でもそんなのがあるんだ。

石山:母親にもよるが、さっきの”毒親”というか、自分のテリトリーにもう一人女性がいると排除したくなる。

アサオ:自分で生んだんやん。

石山:それが怖いんですよ。女性として! 逆に自分で生んだのに「娘が暴れて言う事聞きません」とか。母が「あれ、私の分身やのに」とコントロールしたいのに、娘は「ほっといてくれや、おりゃー!」みたいな。母と娘の関係の難しさというもこの映画を観て感じれた。

アサオ:そうかー、これも男の目線からは解らない部分ですね。勉強になった。

石山:監督はどこまで意識したかは解らない。監督は自部自身が女優だった時に経験した体験の怒りが根底にあるらしい。

アサオ:「人間の本質は?表面という容姿しか見てないじゃないか!!」という怒り。

●別のオチを予想してみた

石山:そうそう、それを全面にぶっつけたんだけど、色んな切り口から考えられるポイントの多い作品。お話変わるけど、最初背中触ってパーフェクトって言ってたイケメンの医者いたよね。

アサオ:サブスタンスの秘密を教える男ね。

石山:それ、あれが実は爺さんだった。あれね。エリザベスって生涯孤独だったでしょ。

アサオ:そう、婆さんになって体効かなくなっても、一人で掃除してたのにも哀れさがあった。

石山:孤独な婆さんになったエリザベスに、イケメン医者だった爺さんが話しかけてくる。あそこで、この二人友達になったら違う話になるなと、

アサオ:なるほど、ほんとだ。

石山:その孤独な二人がくっついたら。

アサオ:そうか。年寄りの時は年より同士、若い時は若い同士でやれば別のハッピーエンドが生まれる。なるほど面白い考察です。
この映画ね。一本観たらこれだけ喋れる。

石山:ずっと喋ってるけど、

アサオ:まだまだ喋れるよーね。
見てない人は、ぜひ見られるといいですね。
最も子のトークはネタバレ大会みたいですが。
本日はありがとうございました。

石山:楽しかったです。

『サブスタンス』公式サイト

●ゲスト紹介
石山 悦子 (いしやま えつこ)
演芸作家
☆第11回 落語協会台本大賞
☆第1回、第3回岩井コスモ証券presents上方落語台本大賞 他

©The Match Factory

(次回は『サブスタンス』の皮を剥ぐ③ 影響と特撮編です)

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この記事を書いた人

SF、ファンタジー、ホラー、アニメなど“サブカルチャー系”映像世界とその周辺をこよなく愛し、それらを”文化”として昇華するため”の活動を関西で続けるFantastic Messenger夢人塔(むじんとう)の代表。1970年代より活動を開始。映画コレクター、自主映画、同人誌を経てプロライターへ。新聞・雑誌への掲載、映画会社の宣伝企画、DVDなどの協力、テレビ・ラジオの出演・製作、イベント・講演、専門学校講師、各種企画などグローバルな活動を続けている。
著書は『アニメ・特撮・SF・映画メディア読本』『ライトノベル作家のつくりかた』シリーズ、『アリス・イン・クラシックス』、『幻想映画ヒロイン大図鑑』他、青心社のクトゥルー・アンソロジーシリーズで短編を書く。雑誌「ナイト・アンド・クォータリー」「トーキング・ヘッズ」に連載。映画は『龍宮之使』、『新釈神鳴』、『ぐるぐるゴー』、『おまじない』などを企画製作。最近は「もののけ狂言(類)」と題して、新作の”幻想狂言”を発表している。また、阪急豊中で約半世紀の歴史を持つ治療家でもある。
夢人塔サイト http://mujintou.jp/

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