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『サブスタンス』の皮を剥ぐ① 基本編

浅尾典彦(夢人塔代表・作家・治療家)

※ネタバレに言及しているところもあるので、映画をごらんになってからお読みになることをお勧めします

●ビューティイメージの皮をまとった衝撃作登場

 アメリカ・イギリスは2024年9月20日に公開、日本では5月16日(金)より、観客に多大なる衝撃を与え続けながら絶賛公開中の映画『サブスタンス』(R15+指定)について考察してみよう。


 「若さと老い、美と醜」をテーマに描かれた美容医療系スリラーで、ポスターイメージは女優の美しさを強調した一見”ファション雑誌の表紙”のような完璧なイメージなのだが、その内容は観客の想像をはるかに超えるトラウマ級の凄まじいボディ・ホラーな展開なのだ。

 事実、観た人の意見は賛否両論に分かれている。
 ハードな展開が好きなSF・ホラー映画ファンは大絶賛し(私はもちろんコッチだ!!)、アイドル映画のように美しく、艶っぽくなる女性像のみを想像して観に来た客はトラウマ級の表現に「夢に見そう、観なければ良かった!」という意見まである。

 若さと美しさに執着し過度に追求するあまり、禁断の再生医療に手を出し狂気の世界に堕ちてゆく哀れな元スター女優の運命を描いているのだが、スタッフ・キャストも粒ぞろいだ。

●スタッフ

 監督・脚本・製作は長編映画デビュー作『REVENGE リベンジ』(2017)で名をあげたフランスの女性監督コラリー・ファルジャ。

 独特の美学が光る撮影は『ハイエナ』(2014)、『プロミシング・ヤング・ウーマン』(2020)などのベンジャミン・クラカン。

 編集は、TVシリーズ「Hero Corp」(2008~17)、『REVENGE リベンジ』のジェローム・エルタベットと『パリのどこかで、あなたと』(2019)『ブラックボックス:音声分析捜査』(2021)のヴァランタン・フェロン
共同製作はティム・ビーヴァン、エリック・フェルナー。

 美術は『エディット・ピアフ ~愛の讃歌~』(2007)でアート・ディレクターを務め、『クイーンズ・オブ・フィールド』(2019)、『社会から虐げられた女たち』(2021)のスタニスラス・レイドレ。

 特殊メイクアップ・アーティストは「アラン・ドロンの刑事物語」(2001)からいまだに語り草になっている『屋敷女』(2007)、 『ワールド・ウォー Z』(2013)、『高慢と偏見とゾンビ』(2016)のピエール=オリヴィエ・ペルサン。

 メイクアップ・アーティストはイザベル・アジャーニ主演の『ボン・ヴォヤージュ』(2003)や『スーパーヒーローへの道』(2020)のステファニー・ギヨン。

 ヘアアーティストは『TAXi(4)』(2007)、『皮膚を売った男』(20)、『TITANE/チタン』(2021)のマリリン・スカーセリ。

●キャスト

 主演エリザベス・スパークル役に『ゴースト ニューヨークの幻』(1990)、『夢の降る街』(1991)、『ア・フュー・グッドメン』(1992)、『幸福の条件』(1993)、『ディスクロージャー』(1994)『素顔のままで』(1996)
のデミ・ムーア。

 モンストロ・エリサ・スー役にクエンティン・タランティーノ監督の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019)『哀れなるものたち』(2023)、『憐れみの3章』(2024)のマーガレット・クアリー。

 上司プロデューサーのハーヴェイ役は『ライトスタッフ』(1983)、『インナースペース』(1987)、『僕のワンダフル・ライフ』(2016)のデニス・クエイド。

 他にエドワード・ハミルトン=クラーク、ゴア・エイブラムス、オスカー・ルサージュ、クリスチャン・エリクソン、ロビン・グリア、トム・モートン、ウーゴ・ディエゴ・ガルシア、ヤン・ビーン(声の出演)ほか。

●ストーリー(前半)

 かつてトップクラスの人気女優としてハリウッド・ウォーク・オブ・フェイム(ハリウッド大通りHollywood Walk of Fame)の星に名前を刻むほど世界から愛されて来たハリウッド映画スターのエリザベス・スパークル。

 50歳の誕生日を迎えてからは容姿の衰えにより最後の仕事であったエアロビクスタイプのストレッチダンス番組の仕事も上司ハーヴェイにより解雇されてしまう。

 精神的にも肉体的にも参ったエリザベスは、遂に倒れて病院に搬送され介抱される。そこで、たまたま出会った男からある新薬について教えられたのだ。

 若さと美しさと完璧な自分が得られるという再生医療「サブスタンス」という考えで違法薬品を使うのだった。

 悩んだ末エリザベスは秘密の薬に手を出すことに。薬品を注射するやいなや、エリザベスの身体からセミが脱皮するかの如く背中が割れて、中からもう一人の若い自分モンストロ・エリサ・スーという存在が分裂して現れたのだ。

 若さと抜群のルックス、そしてエリザベスの経験を持つスーは、いわばエリザベスの上位互換とも言える存在で、ハーヴェイのプロデュースする新人オーディションでその才能を発揮し、エリザベスの後番組に採用された。

 たちまちスターダムを駆け上がっていくスー。
 彼女のエクササイズダンスはたちまち大人気で、テレビ業界は新たなスターの登場に色めき立つ。チャンスはすぐに訪れ、年末のテレビ番組の司会にまで抜擢されるように。

 肉体を分けながらも一つの精神をシェアする存在であるエリザベスとスーは、それぞれの生命とコンディションを維持するためには「一週間毎に入れ替わらなければならない」という絶対的なルールがあったのだが、上り調子のスーは次第にタイムシェアリングのルールを破りはじめる……、そして!!

 当初『サムシング・ワイルド』(1986)『フィールド・オブ・ドリームス』(1989)『グッドフェローズ』(1990)『THE ICEMAN 氷の処刑人』(2012)のレイ・リオッタがいやらしいプロデューサーのハーヴェイ役で出演予定だったが、5月に別の映画撮影中に突然死したため、デニス・クエイドがハーヴェイ役を務めることになった。

『サブスタンス』は、第77回カンヌ国際映画祭コンペティション部門で脚本賞(コラリー・ファルジャ)を受賞
第97回アカデミー賞メイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞。

 主演のデミ・ムーアは、1990年『ゴースト/ニューヨークの幻』では獲りそこなったゴールデングローブ賞・ミュージカル/コメディ部門の主演女優賞に、『サブスタンス』で輝いた。34年越しの快挙を成し遂げたのだった。

『サブスタンス』公式サイト

©The Match Factory

(次回は『サブスタンス』の皮を剥ぐ② 女性の目線・男性の目線編です)

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この記事を書いた人

SF、ファンタジー、ホラー、アニメなど“サブカルチャー系”映像世界とその周辺をこよなく愛し、それらを”文化”として昇華するため”の活動を関西で続けるFantastic Messenger夢人塔(むじんとう)の代表。1970年代より活動を開始。映画コレクター、自主映画、同人誌を経てプロライターへ。新聞・雑誌への掲載、映画会社の宣伝企画、DVDなどの協力、テレビ・ラジオの出演・製作、イベント・講演、専門学校講師、各種企画などグローバルな活動を続けている。
著書は『アニメ・特撮・SF・映画メディア読本』『ライトノベル作家のつくりかた』シリーズ、『アリス・イン・クラシックス』、『幻想映画ヒロイン大図鑑』他、青心社のクトゥルー・アンソロジーシリーズで短編を書く。雑誌「ナイト・アンド・クォータリー」「トーキング・ヘッズ」に連載。映画は『龍宮之使』、『新釈神鳴』、『ぐるぐるゴー』、『おまじない』などを企画製作。最近は「もののけ狂言(類)」と題して、新作の”幻想狂言”を発表している。また、阪急豊中で約半世紀の歴史を持つ治療家でもある。
夢人塔サイト http://mujintou.jp/

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